ピエール・ユイグの『ソトタマシイ』を観てきました!
アートに興味がある人はもちろん、アートのことをよく知らないという人であっても表現(音楽・映画・絵画など)が好きな人であれば楽しめる作品だと思います。
作品の概要と意味を解説して紹介します。
太宰府天満宮に作られたインスタレーションアート『ソトタマシイ』
『ソトタマシイ(Exomind)』は、フランス人アーティスト ピエール・ユイグによるアート作品(インスタレーション)です。
福岡県太宰府市にある太宰府天満宮の一画に作られた小さな「庭」が『ソトタマシイ』です。
作者のピエール・ユイグとは
ピエール・ユイグ(Pierre Huyghe)は1962年フランス・パリ生まれのアーティストで、ニューヨークを拠点に活動を行っています。
90年代から、映画の構造を利用してフィクションと現実の関係を探る映像作品や、美術館、展覧会などに潜む制度に注目したプロジェクトを多数発表。
第49回ヴェネチア・ビエンナーレにて審査員賞受賞(2001年)、第1回横浜トリエンナーレ参加(2001年)、ヒューゴ・ボス賞受賞(2002年)、ドクメンタ13(2012年)や第10回光州ビエンナーレ(2014年)など数々の大規模国際展に参加するなど、世界規模で活躍するアーティストです。
昨年には東京の表参道にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京にて個展も開催されました(こちらも観に行きましたが素晴らしかったです)。
さらに2019年に開催される第2回岡山芸術交流では芸術監督を務めることも発表されています。
『ソトタマシイ』は太宰府天満宮アートプログラムの一環
太宰府天満宮は1100年以上前に建てられ、「文化の神様」である菅原道真公をご祭神としてお祀りしています。
人々が行き交い集う場としての「開放性」と天神信仰の場としての「固有性」という太宰府天満宮が持つ2つの性質をテーマに掲げ、2006年より行われているのが「太宰府天満宮アートプログラム」。
このアートプログラムでは様々な分野において第一線で活躍中のアーティストを招き、太宰府での取材や滞在を経て制作された作品を公開し、太宰府天満宮の「開放性」「固有性」とアーティストの個性が重なり合うことで、太宰府や太宰府天満宮の新たな一面を発信しています。
『ソトタマシイ』はこのアートプログラムのVol.10に当たります。
『ソトタマシイ』の解説
『ソトタマシイ』は太宰府天満宮の敷地の中では奥の方にあり、細い階段を登った先にあります。
説明なしに作品を見ただけでは意味を理解するのはなかなか難しいと思います(僕も全然わかりません)。
作者が意図した作品の意味を知らずとも、その空間の非日常感を感じることが面白かったりもするのですが、意味がわかると面白さは深みを増します。
会場スタッフの方に教えてもらった作品の意味合いを説明します。
僕自身、基本的なアートの知識があまりあるわけでもないのでスタッフの方の説明を完全には理解できなかったのですが、僕が理解できた範囲で説明しようと思います(間違いがあったら教えてもらえると助かります)。
ピエール・ユイグが太宰府天満宮の歴史に触れ作った作品
作者のピエール・ユイグが境内を実際に歩き、境内図などの資料を見て構想した本作は、作者が以前から取り組んできていた「自然と人為の関係性」への考察を背景としています。
また、「古代と現代」「西洋と日本」といったいくつもの相反するモチーフを盛り込んだ作品となっています。
頭部が蜂の巣の裸像
庭の中でも一際目を惹くのが「頭部が蜂の巣になっている女性の裸像」です。
実際に生きたミツバチが巣に大量にいてその周りを飛んでいるので、鑑賞者は一定の距離までしか近づけません(どこまで近づくかは自由です)。
この「頭部が蜂の巣になっている女性の裸像」、裸像の形(姿勢)こそ違いますが、「Untilled 未耕作地」という作品で既に発表しています。
「Untilled 未耕作地」を紹介しているブログがありました。
併せて読むと理解が深まります。
スタッフの方の説明によれば「顔が見えないからこそ、より内面を想像する」というのはユイグが今までも表現してきたテーマの一つでもあるそうです。
蜂の巣で顔を隠すことで、見えないものを作り、そこに想像力を働かせようということです。
また裸像は人工物、蜂の巣は自然物であり、この庭のテーマの一つである「自然と人為」も表現しています。
蜂の巣は季節ごとに姿を変え、ミツバチも活発に活動する時期もあれば静かに過ごす時期もあります。
訪れる時期ごとに変化を感じられるのも楽しみ方の一つです。
代々続く歴史を象徴する橙
写真右端にある実のなっている木が橙(だいだい)です。
橙は熟したオレンジ色の実と未熟な青い実が同時に一つの木になる種です。
1100年以上の歴史がある太宰府天満宮もその時々の時代の流れとともに存在してきていて、1100年前から今まで、地続きで繋がっています。
橙には「代々」の意味もあります。
1100年前から途切れることなく地続きで今まで繋がってきた太宰府天満宮のあり方を象徴するのが橙です。
「古代と現代」というテーマを表現しています。
ウーパールーパーの住む池
庭の一角には人工の池があります。
池にはウーパールーパーが放たれていて、これも「古代と現代」を象徴しています。
ウーパールーパーは「幼形成熟(ネオテニー)」、つまり体が大人になりきらない状態で子供を産める個体です。
大人になりきらずに子孫を残すという意味で、青い実と熟した実が同時になる橙と同じテーマを象徴していることがわかると思います。
その他多数の要素
池には画家のクロード・モネが居を構えたジヴェルニーから取り寄せた睡蓮を浮かべていたり、錦鯉が放たれていたりもします。
裸像の横には御神木飛梅が植えられていたり、石が置かれていたり、三毛猫も庭のどこかに(見れませんでしたが)いるそうです。
ここに書いたことは一部の構成要素であり、一部の捉え方でしかありません。
裸像にしても池にしても、ここに書いた以外の意味合いも含まれているので、訪れた際にスタッフの方がいる場合は説明してもらうと理解が深まり、より楽しめると思います。
パーマネント作品なので恒久的に残る
『ソトタマシイ』はピエール・ユイグにとって初めてのパーマネント作品として作られました。
『ソトタマシイ』は今後恒久的に太宰府天満宮に残り続けます。
恒久的にその場に残る作品はパーマネント作品と呼ばれ、特別な何かが起こらない限りは半永久的に作品として公開され続けます。
ひいては公園の銅像もパーマネント作品と呼んでいいと思うのですが、1100年以上の歴史がある太宰府天満宮にパーマネント作品が設置されるということに特別な意味合いを感じざるを得ません。
そういったことすらも踏まえた意味合いの作品になっているのも興味深いです。
今回僕は公開から7日目(平日はやっていないので実質2日目)に観に行ったのですが、1年後に行けばウーパールーパーは成長しているでしょうし、季節が変われば三毛猫も見れるかもしれません。
また、50年後に観に来れば、公開した直後と50年後の違いを楽しむこともできるかもしれません。
宝物殿で関連展示も公開中
また宝物殿の企画展示室では『ソトタマシイ』の関連展示が公開されています。
関連展示では、『ソトタマシイ』の発想の元となった写真や資料のほか、ピエール・ユイグ直筆の構想のメモも見ることができます。
こちらはパーマネントではなく2018年5月6日(日)までの公開。
宝物殿への入館料が一般400円かかりますが、もしこの期間中に訪れる方がいましたら観てみることをお勧めします。
【注意】土日のみの公開
『ソトタマシイ』は土曜と日曜の11~15時に公開されています。
平日は公開されていないのでご注意ください。
また、屋外での作品なので雨天の場合は公開を中止する場合もあります。
公開されるかどうかはFacebookページにて当日お知らせされています。
訪れる際はFacebookページにて確認するか太宰府天満宮文化研究所までお問合せください、とのことです。
アート作品を意識的に観たことがないという方も、土日に太宰府天満宮を訪れる際には是非寄ってみてはいかがでしょうか。
--------
追記 2018/1/4
太宰府天満宮はアート作品の宝庫
太宰府天満宮には『ソトタマシイ』以外にも現代アートの作品がたくさん展示されています。
それらを一つひとつ簡単に紹介した記事も書きました。あわせてどうぞ。