裸眼日記

札幌在住のミュージシャン青柳唯(あおやなぎゆい)が音楽・映画・お笑いなどについて書くブログ(両目1.5)

衝撃的な出会い。奇跡のバランスで成り立つバンド「くじけな」

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久しぶりに衝撃的なバンドに出会いました。

僕は札幌在住のバンドマンなんですが、バンドのミニアルバムのレコ発ツアーで関西を回っていた2016年6月4日、大阪梅田のHARD RAINというライブハウスでそのバンドと共演しました。

そのバンドの名前は「くじけな」。

何が衝撃だったかというと、それはバンドが持つ要素の絶妙なバランス感覚です。

簡単に説明するのは難しいのですが、僕がグッときた、そのバランスを構成する要素を書き出すことによって、バンドの魅力や僕がなぜ衝撃を受けたかを伝えたいと思います。

バンドをやっている人は割と理解しやすい話だと思いますが、バンドのことをよく知らない人にも伝わるように努めて書こうと思います。

「くじけな」の基本的な情報

メンバー編成はギターボーカル(男性)、ベースコーラス(女性)、ドラム(女性)の3人組。

バンドの音楽性は、大きなくくりでいうと、ロックンロールやパンクといったジャンルに属します。

あくまでポップで聴きやすく大衆性を持ったその音楽性は、音楽マニアじゃなくてもスッと入ってくると思います。

RCサクセション、↑THE HIGH-LOWS↓、THEピーズといったバンドたちの延長線上にいるような、そんな日本のロックバンドです。

こう書くと普通のその辺にいる良いバンドのような気がしてくるのですが、くじけなは絶妙なニュアンスでアイデンティティを持っています。

本題に入る前の前置き(重要)

まず前提として理解していただきたいのが、僕はくじけなのことが好きだということです。

ライブを一度観ただけなので、あくまでその一度のライブ*1から得たことしかわからないのですが、僕が彼らの虜になるためにはその一度のライブ体験で充分でした。

この前提はかなり大事なので、理解した上でこのあとに出てくる要素を噛み締めてください。

視覚から得られる情報にグッとくる

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音楽は耳で聴くものですが、ことライブに関しては、目の前のミュージシャン本人のプレイを目で楽しむということも大きな要素になります。

くじけなの魅力を語る上で、視覚から得る情報は欠かせない要素となっています。

高価な機材を使っていない

くじけなは多分(あくまで多分ですが)、価格の高い機材*2を使っていません。

一つひとつ見ていけば、もしかしたらそれなりに高い機材が出てくるかもしれないんですが、パッと見では安い機材ばかりが目に付きます。

ギター本体は覚えていないのですが、足元のエフェクター*3はほとんどBOSS*4

4個中3個BOSSみたいな感じの足元で逆にそれがグッときます。

そんなギターの方が使っているギターストラップ*5はアーニーボール。

僕も同じストラップを昔使っていましたが1000円くらいの超安いものです*6
安くても普通に使えて、何の問題もないんです。

ベースの方が弾いているベース本体も、まるでリッケンバッカー*7のような見た目なんですが、少し形が違う。

僕が知らないだけで、あの形のモデルもあるのかもしれないけど、おそらくあれはリッケンバッカーを似せて作った別メーカーの安めのベースなんじゃないかと思っています。
事実の確認は取ってませんが、僕の気持ちとしても、リッケンバッカーの類似メーカーの安いベースであってほしいんです。

ドラムの方の機材はいよいよ見えていなくて全くわからないのですが、うん十万の機材は使わず、数万円のスネアとキックを使っていてほしいものです。

なぜ安い機材を使っていることに僕がグッとくるかというと、それはその姿勢に潔さを感じるからです。
そしてそれがバンドの持つ精神性を端的に現すことになるからだと思います。

NHK交響楽団には高級な機材を使ってほしいし、セックスピストルズには安価な機材を使ってほしいというような願望でしょうか...。

ステージ上での振る舞い方がいい

ギターボーカルの方は前を見て歌いません。

一般的に、バンドのボーカルは前を見て歌うのが基本です。

曲を通してお客さんと繋がろうと考えたときに、バンドのボーカルはお客さんの目を見たり、身振り手振りで煽ったり、真っ直ぐ前を見て歌うことでメッセージを伝えようという意思を表現します。

しかしくじけなにおいては、ボーカルの方が前を見て歌うことはほぼなく、印象として残っているのはギュッと目を閉じて歌っている姿です。

おそらくは自宅に一人で*8ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら作ったであろう渾身の曲たちを、振り絞るように、発散するように、ギュッと目を閉じて歌うのです。

商業的なステージパフォーマンスとは真逆にあるその刹那的な、命の炎を燃やすように歌うその姿がくじけなを視覚で捉えることの意義です。

特別歌が上手いわけでもなければ、無茶苦茶に絶叫するわけでもない。

おそらくは一人で原案を作り、バンドで練り上げたであろう楽曲を、ただただ丁寧に再現しよう、その上で思い残すことなく力を出そうという気持ちが感じられてグッときます。

視覚だけでなく、音楽的にもグッとくる

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くじけなは視覚的にも魅力がありますが、そうは言ってももちろん音楽ありきです。

音楽面の魅力を紹介します。

曲がいい

何といってもここ。曲がいい。

曲がいいからすべてがプラスに転じているのです。

普遍的でわかりやすいシンプルなメロディにコーラス、シンプルなバンドアンサンブル。

一度聴いただけで曲の意味や流れを理解できるし、覚えやすい。

曲がキャッチーであることはバンドの間口も広げるし、僕は単純にキャッチーな曲が好きです。

ギターソロがチープ

機材が安いということは音がチープになりがちです。

豪華絢爛な音はもちろん魅力的ですが、くじけなの音のチープさ*9は、その曲調とマッチしていてグッときます。

特に曲の間奏で登場するギターソロにグッときます。

一般にギターソロでは、ギターの音を際立たせるためにエフェクターで音を大きくしたり派手にしたりします。

くじけなも例に漏れずギターソロでエフェクターを踏むのですが、そのエフェクターによる音の変化具合も特徴的です。

かなり大胆でわかりやすい、耳に痛くはないけど誰の耳にも「ギターソロだ!」とわかるガコッとした音色と音量*10、さらにその音で超シンプルなフレーズを弾くんです。

メロディラインをそのままギターで弾く感じで、音数も少ないし、休符も恐れない。

超速弾きをしなくても、バリエーションに富んだフレーズを用いらなくても、人の心を動かすギターソロは弾けるんだぜってことを物語っていました。

そのバランスがバンドの色を決めている

前情報も何もない状態の初見のライブでまんまと僕の心が動かされてバンドに魅了された理由は、上に書いたような様々な要素が絶妙なバランスで組み合わさっているからだと分析しました。

高くない機材でチープな音(潔いフレーズ)、素朴なステージングでありながらグッドメロディでキャッチーなロックをやっている。
その組み合わせが絶妙だし最高です。

曲が良い、歌詞が良いこと*11はもちろんなのですが、その音楽性と演者の見た目*12、音楽的にどうアレンジしてどんな音で表現するかということによってバンドの見え方は大きく変わります。

おわりに

上記のようにくじけなの魅力を、そのバランスと、構成要素に焦点を当てて書きましたが、曲の根幹部分やアレンジが素晴らしいという時点で、そのバンドの持つバランスが少しずつ変わっていっても、トータルで良いバンドで居続けるんじゃないかとも思っています。

くじけなは現時点で奇跡のバランスを保っていますが、これから高い機材を手にしたら手にしたで、それにあった曲を作ったり、それにあった音に変わったりしていくんじゃないかとも思っているんです*13

くじけなを観た時と同じような感覚に陥ったことが、そんなバンドに出会ったことが僕もかつて何度かありました。

そのバンドたちはほとんどが解散してしまい、バンドのバランスが変わる様を見届けることが簡単じゃないとは知っているのですが*14、一リスナーとして、くじけなのその先をぜひ見せてほしいと願っています。

*1:生モノであるライブには調子のいい日悪い日があるので、あの日のライブが本人たちにとって満足いくものだったのかはわかりませんが、僕にはベストアクトにしか見えませんでした。

*2:楽器やその他演奏に関わる道具のこと。

*3:ギターの音を加工してかっこいい音にしたりヘンテコな音にしたりする機材。基本的に足元に置いて、それを踏むことによってスイッチが入ってギターの音が変わります。好きな人は足元に何十個も置くし、敢えて一個も使わないことによって男気を表現するというパターンもあります。

*4:日本で最も有名なエフェクターメーカー(世界でどうかは僕はわかりません)。日本全国どこでも売っていて、価格帯もエフェクターの中では割とお手頃。たくさんの種類のエフェクターを出していてプロもアマも使っていますが、こだわっている人は高価なエフェクターや珍しいエフェクターを使いがちでBOSSを敬遠します。「それでも1個だけBOSS使ってます」みたいなパターンもあるけど、「BOSSしか持ってません」だと舐められる可能性高し。

*5:立ってギターを弾くために使う紐(ベルト)。肩にかかっているあれです。

*6:最近楽器屋さんに行ったとき、ほぼ同じデザインで機能性だけ向上した3000円くらいの上位モデルもあったので、もしこっちのモデルを使っていたのなら話がまた変わってくるのですが、僕は1000円のモデルを使っていてほしいです。

*7:30万円くらいする有名なベースメーカー。独特のフォルムがかっこよくて見た目で買いたくなっちゃう。

*8:作詞作曲とは得てして孤独なものです。

*9:具体的には、ギターやベースの音によるものが大きいです。ギターやベースは、音を増幅して出力するアンプやエフェクターで様々な音を作ることができます。高音域をたくさん出力すると耳の痛い音に、低音域をたくさん出力するとボワボワして何を弾いているかわかりづらい音になるといった感じです。そこを上手に調節してギターとベースでそれぞれの役割を果たし、総合的にバンドの音は作られていきます。ちなみに、高い楽器は勝手にゴージャスな音に、安い楽器はがんばってもチープな音になりやすいです。

*10:音楽的な話をすると、狭い帯域をグググとブーストして音量を稼ぐ感じの歪み。BOSSのオーバードライブ踏んでるのかな、とか思います(確証なし)。ビートルズとかマディ・ウォーターズとかがやってそうな音作りの歪みの部分をシンプルにした感じですかね。

*11:長くなったので省略しましたが、実はくじけなは歌詞もすごくいいです。

*12:今回は機材やステージングに触れましたが服装や髪形などのファッションの部分も、バンドがお客さんに与える印象を大きく変えますよね。

*13:それは実体験として、僕のバンド自体がそうやって色んな要素のマイナーチェンジを繰り返して変化してきたという実感があるからです。といっても僕のバンドはそこまで奇跡的な瞬間風速を出していなかったかもしれませんが。

*14:人が誰しもいつか死ぬようにバンドもいつか解散します。それにしたってインディーズバンドは短命な場合が多いです。