裸眼日記

札幌在住のミュージシャン青柳唯(あおやなぎゆい)が音楽・映画・お笑いなどについて書くブログ(両目1.5)

伝説の板画家の生き様に痺れる!棟方志功展「わだば、ゴッホになる。」の見どころと感想

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棟方志功展「わだば、ゴッホになる。」札幌展の初日を観てきました。端的に、超最高でした。

北海道立近代美術館にて2018年2月3日(土)から開催の棟方志功展では、74作品、およそ350点にもおよぶ棟方志功の作品が一挙に公開されています。

この記事ではこの展覧会の解説をするとともに、個人的に感じた見どころもご紹介します。

ゴッホとの出会いで油絵を始め、板画で成功した棟方志功

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棟方志功は絵バカだった

1903年に青森に生まれた棟方志功は、18歳の時に雑誌で見たゴッホの「向日葵」の絵に心を鷲掴みにされ油絵を描くようになります。

愚直なまでに絵を描いていたことから、地元では「絵バカ」とも言われていたらしく、感情表現豊かで人間味あふれるその人柄は写真からも伝わってきます。

日本人としての表現を追求し油絵から板画へ

18歳の時にゴッホの絵を観て「わだば、ゴッホになる。」と油絵を勉強し始めた棟方は、21歳に上京し、25歳にて当初から目標にしていた帝国美術院展覧会に初入選。

この頃から「油絵は結局は西洋のものではないか」「日本人として自分は何をするべきか」と考え始め、木版画を始めます。

板画を始めた初期の頃は川上澄生の版画の影響が見られ、それ以降の独自のスタイルを確立した後とでは作風が大きく違います。

板画が評価され世界のムナカタ

その後数多くの作品を残した棟方は、1956年のヴェネツィア・ビエンナーレにて日本人として版画部門で初の国際版画大賞を受賞するなど、海外での評価を獲得していき、「世界のムナカタ」として日本を代表する板画家になりました。

棟方志功展「わだば、ゴッホになる。」の見どころ

個人的にグッときた作品や、そのエピソードなど、展覧会の見どころをご紹介します。

板画の必然性を追求した「萬朶譜(松竹梅)」

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板画でなければならない表現を追求した棟方は、松竹梅を描いた3枚の絵を、それぞれの模様で表現しました。

表現したい部分を拡大・強調し、装飾した模様で松竹梅の板画を彫りました。

絵画の世界でも、写実的に表現するところから一歩踏み込んでオリジナリティを追求することで新たなスタイルを確立することがあります。

ブラックやピカソのキュビズムなどと同様に、表現者が作品や自己と向き合うことで新たな表現を生み出す事例を見ると、その作者の苦悩や生き様に思いを馳せざるを得ません。

板画の原板にさわれる「二菩薩釈迦十大弟子」

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昭和30年サンパウロビエンナーレ国際美術展で版画部門最高賞、翌31年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展にてグランプリの国際版画大賞を受賞した棟方の代表作の一つ。

なんとこの作品、実際に彫った板木が展示されていて、触ることができます!

展覧会の中で唯一触って楽しめる展示であり、2枚の板木を実際に触って板画のリアリティを感じることができます。

テーマがグッとくる「華狩頌」

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「空の四方に削り矢を放つ」というアイヌの祭りの儀式をヒントに制作された作品。

この作品について棟方はこんな言葉を残しています。

「けものを狩るには、弓とか鉄砲とかを使うけれども、花だと、心で花を狩る。きれいな心の世界で美を射止めること、人間でも何でも同じでしょうが、心を射とめる仕事、そういうものを、いいなあと思い、弓を持たせない、鉄砲を持たせない、心で花を狩るという構図で仕事をしたのです」

弓も鉄砲も持たずに心で花を狩る。

有識者や棟方さん本人が聞いたら「全然違うよ」って言うかもしれませんが、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが行った平和活動パフォーマンス「ベッド・イン」を思い出しました。

大好きなものに囲まれた自画像「歓喜自板像の柵」

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中央上部にある石塔は尊敬する民芸学者・柳宋悦を象徴し、その左にはゴッホ、右にはベートーベンという大好きな先人たち、石塔の下部には河井寛次郎などの陶芸作品があります。

そしてバクの枕に頭を乗せて寝転ぶ棟方志功自身の幸せそうな姿。

彫刻刀が近くに置かれているのは、制作当時57歳だった棟方がまだまだこれからも板画作品を作っていくという決意のようにも見えます。

そして注目すべきは作品の左下。長年棟方を支え続けてきたチヤ夫人の白い手が棟方の右手と繋がれているのです。

大好きな人やものに囲まれた幸せそうな自画像と、奥さんへの感謝。泣ける作品です。

御鯉魚図(万里水雲長)

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説明文を読まずに作品と対峙した中で、僕が最も素晴らしいと思ったのがこの作品。

これは板画ではなく、紙に筆で描かれた倭画

作品のタイトルをインターネットで検索しても画像が全然出てこず、いろんな検索方法でなんとか見つけたのがこのポスターの画像でした。

青森にある棟方志功記念館が平成26年に行った企画展「花鳥図-倭画の魅力-」のポスターの中央に配されているのが「御鯉魚図(万里水雲長)(おんりぎょず/ばんりすいうんなが)」。

迷いがなく生きいきとした筆のタッチ、カラフルな色彩は、ぜひ実物をその目で見てほしいです。

パソコンやスマートフォン越しでは伝わってくるものが明らかに違います。

この展覧会の中では特別持ち上げられていない作品を紹介しましたが、誰が評価していてもしていなくても、自分にとってグッとくる作品というのが人それぞれあるはずです。

そういった作品と出会えたら、それだけで展覧会に行った価値があるのだと思います。

棟方志功の生き様

版画ではなく「板画」

棟方は自分が作る木版画のことを「板画(はんが)」と呼んでいます。

それは、「木の魂を直に生み出さなければならない」「板の生まれた性質を大事に扱わなければならない」という考えのもと、「板」という字を使うことにしたそうです。

作品の名前につけられている「柵」

前述した「歓喜自板像の柵」にも見られるように、棟方の板画作品には「○○の柵」という作品名のものが多々あります。

この「柵」について棟方はこのように語っています。

四国の巡礼の方々が寺々を廻られるとき、首に下げる、寺々へ納める廻札、あの意味なのです。この札は一つ一つ、自分の願いと信念をその寺に納めていくという意味で下げるものですが、私の願所にひとつひとつ願かけの印札を納めていくということ、それがこの柵の本心なのです。ですから納札、柵を打つ、そういう意味にしたいのです。たいていわたくしの板画の題には「柵」というのがついていますけれども、そういう意味なのです。

さらにこう続きます。

一柵ずつ、一生の間、生涯の道標をひとツずつ、そこへ置いていく。作品に念願をかけておいていく。柵を打っていく、そういうことで「柵」というのを使っているのです。この柵は、どこまで、どこまでもつづいて行くことでしょう。際々無限に。

「柵」に込められたこの思い、めちゃくちゃかっこいいなと思いました。

展覧会では棟方志功が亡くなる前年に制作した最後の板画も観ることができ、その作品には「捨身飼虎の柵(しゃしんしこのさく)」という名前が付けられています。

棟方志功展「わだば、ゴッホになる。」概要

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この記事では紹介しきれていない部分では、同じ東北出身で同時代を生きた作家 宮沢賢治の『雨ニモマケズ』を板画で彫った作品、ニューヨークに行った際に彫った英語での板画、仏教の教えをモチーフにした作品の数々など、棟方志功と交友のある人間や自身の生活と直結した作品を観ることができます。

そしてそれらの作品のエピソードがまた素晴らしいんです。

「わだば、ゴッホになる。」というタイトルは、宣伝文句としての煽り(ゴッホの人気にあやかる)のタイトルであり、展覧会の内容とは少し合っていないかなとも思うのですが、棟方志功のことをまったく知らない人が観ても存分に楽しめる展覧会となっています。

棟方志功の生き様をぜひ感じてみてください。

開催日:2018年2月3日(土) 〜 2018年3月25日(日)
休館日:毎週月曜(ただし2月12日(月)は開館)、2月13日(火)休館

開催場所:北海道立近代美術館

観覧料:一般/1,300(1,100)円、高大生/800(600)円、中学生/600(400)円 小学生以下無料
※( )内は、前売料金及び10名以上の団体、リピーター割引料金