裸眼日記

札幌在住のミュージシャン青柳唯(あおやなぎゆい)が音楽・映画・お笑いなどについて書くブログ(両目1.5)

建物全体がステージであり客席!?映画のような感動が湧き上がる新感覚の体験型ライブ「クロージングナイト in ガラスのピラミッド」が衝撃的だった

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この記事は長いのであとでまとめて読む(はてな用)

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今まで音楽のライブを500本以上観てきましたが、今まで観たどのライブとも違う初めての体験をしました。

音楽の演奏でありながら、芸術的で、宝探しのような体験型アトラクションでもあり、最終的には映画のよう

こんな体験は今までしたことがなく、これから体験することも多くないと思います。

そんな新しいライブの形を見せた札幌国際芸術祭の「クロージングナイト in ガラスのピラミッド」がどんなライブだったかを紹介します。

あまりに新しすぎて説明も難しいのですが、一つずつ説明していき、僕の体験した衝撃を伝えていこうと思います。

札幌国際芸術祭(SIAF)を締めくくるクロージングイベント

今回ご紹介するライブの名前は「クロージングナイト in ガラスのピラミッド」

8月6日〜10月1日の57日間に渡って行われた札幌国際芸術祭(通称SIAF・サイアフ)という芸術祭の内の一イベントです。

SIAFは札幌全域で行われる大規模な芸術祭

SIAFは期間中様々な展示やイベントが札幌のあらゆる場所で行われていて、会場はいわば"札幌市全域"

2014年の初開催時にはゲストディレクター(総監督のようなポジション)に坂本龍一を招いて行われ、3年越しに行われる今回が第2回目となります。

そんな大規模な芸術祭のクロージングイベントが9月30日に札幌モエレ沼公園で9時間に渡って行われ、そのイベントの最後を飾ったのが「クロージングナイト in ガラスのピラミッド」です。

内容盛り沢山のクロージングイベント

クロージングイベント自体は朝10時からスタート。

東日本大震災からの復興を機に始まった大風呂敷プロジェクト*1で縫った一万平米の風呂敷を広げることから始まり、『あまちゃん』や『この世界の片隅に』でお馴染みの"のん"によるライブや、プロやアマチュアもごちゃまぜの「音楽&アート解放区」(僕も出演しました)、楽器が演奏できなくても合奏を体験できる「オーケストラSAPPORO」などが行われました。

そしてこの長丁場のイベントの最後に行われたのが「クロージングナイト in ガラスのピラミッド」です。

イサムノグチが設計したモエレ沼公園を象徴する建物である「ガラスのピラミッド」全体を使って行われた体験型ライブです。

新しいライブの形を見せた「クロージングナイト in ガラスのピラミッド」

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会場となったガラスのピラミッド

出演者は大友良英、テニスコーツ、立花泰彦の4人

クロージングナイト in ガラスのピラミッドに出演したのは下記の4名。

名前を見ただけではピンと来ない方のためにも簡単に説明します。

大友良英

札幌国際芸術祭2017のゲストディレクター。

NHKドラマ『あまちゃん』や『トットてれび』の音楽、映画『アイデン&ティティ』や『色即ぜねれいしょん』の音楽など、数々の映画音楽や劇伴を手がける。

その一方アンダーグラウンドなノイズミュージック、フリージャズのような音楽も演奏する。

今回のライブではアコースティックギターを演奏。

テニスコーツ

植野隆司とさやによる二人組ユニット。

日本国内のみならず世界でも活躍しており、SIAFの期間中には札幌の至る所で毎日のようにライブをするなど、今回のSIAFでの中心アーティスト。

今回のライブでは植野がアコースティックギターを、さやは歌(声)のほかにキーボード・小さな弦楽器(楽器名不詳)などを演奏。

立花泰彦

北海道浦河町在住のジャズベーシスト。

かつてはピンクレディーや野口五郎など、数々の日本の歌謡・J-POPのアーティストのバッグでベースを弾いてきた

大友良英からのオファーで、SIAFのイベントに複数出演。

今回のライブではウッドベースを演奏。

会場はガラスのピラミッドの全フロア

会場となるガラスのピラミッドは、全面ガラス張りのピラミッド状の建物

3階までフロアがあり、さらに階段を登れば屋上に出ることができます。

SIAFの期間中、ガラスのピラミッドでは1階から3階までびっしりとアートの展示がされていました。

今回のライブ会場は、その展示スペースを含むガラスのピラミッドの全フロア

観客はフロアを移動しながら、出演者を追いかけたり探したりしながらライブを楽しみます。

まだ何を言っているのかわからないかも知れませんが、その「???」は会場のお客さんの気持ちの追体験と言ってもいいかもしれません。

もうちょっと説明していきます。

出演者は会場を自由に動き回る

(大友さんはトイレの水ともセッションする)

このライブの最大のポイントがここです。

「ステージの上にすべての出演者が集まり、観客は客席でその演奏を楽しむ」という今までのライブの概念が通用しないのがこのライブ。

4人の出演者はそれぞれに、会場内を移動しながら演奏します。

1階には大友さんが、2階にはさやさんが、エレベーターには植野さんがいて、それぞれに演奏しているという感じ。

観客は自由に会場内を移動して、自分の好きな場所で好きな音楽を楽しみます。

大友さんを追いかけて会場中を移動するもよし、途中で大友さんから離れて他の演奏者を探しに行くもよし、誰もいないフロアで演奏者が来るのを待ち伏せするもよし。

ガラスのピラミッド全体がステージであり、客席でもあるということ。

どこでどう楽しむかは観客一人ひとりに委ねられているということです。

植野さんはずっとエレベーターの中

それぞれの演奏者はゆっくりと歩きながら演奏しつつ、一つの場所にある程度留まったりしつつも、基本的には「移動する」のがルール。

そんな中、テニスコーツのギタリスト植野さんだけはずっとエレベーターの中から動かないという離れ業を演じていました。

出演者4人の中でそういう打ち合わせがあったのか、「エレベーターにずっといるの面白くない?」と植野さんが独断で行動していたのかは謎ですが、4人中の1人が「本人は全く動かない」「しかし乗り物自体は動いている」「すぐに乗れる(聴ける)時もあれば、かなり待たなきゃならない時もある」「一度に5,6人しか乗れない(演奏を聴けない)」という建物の中でも特徴を持つエレベーターという乗り物に常駐しているというのは、このイベントの面白みをより深くしていたように思えました。

エレベーターは常に全ての階に停まるようになっていて(植野さんがお客さんに「全てのボタンを押してください」と言っていた)、観客は好きなタイミングで乗ったり降りたりできます。

「そろそろ植野さんに会いたくなってきたなあ」なんて言いながらエレベーターに向かうと必ず会えるのは安心感すらありました(他の演奏者は探さないと会えない)。

演奏の内容は即興

各演奏者による演奏は完全に自由。

基本的には即興で、その場その場に合った音をそれぞれが出していました。

その中でもエレベーターの中にずっといた植野さんは割と既存の曲を演奏。

アコースティックギターの生演奏でありながら、ぬるっと次の曲に自然と移り変わる様はDJのようでした。

テニスコーツの曲を弾いたり、あの有名な「禁じられた遊び」を弾いたりして(僕のバンドメンバーが「イェー」と盛り上がりミニエレベーター内に笑いが起きる)、「エレベーターの中にずっといる」というユーモアのある行動を取る人ならではの演奏で面白かったです。

観客はルールを教えてもらえない

このツイートを見るとどうやら最初に軽い説明はあったようですが、簡単な説明を聞いただけではこのライブの楽しみ方はわかりません

僕は数分遅れて途中参加(上階のアート展示を観ていた)だったので、最初は何が起きているかわからず、時間が経つにつれて徐々に意味を理解して楽しみ方がわかってきました。

他のお客さんたちも同様で、徐々にこのライブのルールと楽しみ方がわかっていく様が見て取れました。

スタッフもルールを知らない

僕はバンドメンバーたちと3人で行動していて、割と早い段階でこのライブのルールに気付いたのですが、どうやらスタッフは全く説明を受けていないようでした。

エレベーター前にいるスタッフに「(エレベーターに)乗っていいですか?」と聞くも「今大友さんは階段で上に向かってますよ」「エレベーターに乗って展示を観に行くのはいいですが、ライブは観れないですよ」との答え。

「いや違うでしょ。確かに今大友さんが2階にいるところからライブはスタートして、大友さんは3階に向かうところだけど、別の演奏者はこの建物のどこかでそれぞれ音を鳴らしてるんですよ。だから他の人を探しに行きたいんですよ」とスタッフの人に対して思うも(口には出してない)、まだ僕らもルールを推測している段階で確信はしていなかったので、スタッフの人に従って階段に向かってしまいました…。

このスタッフの方達はそもそも「展示の見回りスタッフ」

今回のライブイベントのためのスタッフではないため、基本的には展示のことしか知りません(本来ライブのことも教えてもらっていてもいいとは思うけど)。

しかしある程度時間が経った頃にはスタッフの人たちもいなくなり(おそらくルールを知っているスタッフからの説明が遅れて入ったのでしょう)、僕らはルールを確信してワクワクしながら会場中を移動してライブを楽しんだのでした*2

ライブの最後は感動の「全員集合」

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会場にいるお客さんの中で最もこのイベントを楽しんでいたのはエレベーターに入り浸っていた小学生の男の子か、または僕らだったんじゃないか、というくらいに会場中を移動しまくっていた僕と僕のバンドメンバー。

ライブの終わり方はなんとなく想像がついていました。

それは「すれ違い続けていた4人が一箇所に集まっての演奏」

一瞬ニアミスするようなこともあるけれど、基本的にはそれぞれがバラバラの場所で、バラバラの曲を演奏する4人。

彼らが一箇所に集まって、演奏する。

それがこのライブの終わり方だろうというのは、なんとなく想像がつきます。

ウッドベースを演奏する立花さんが移動するのについて行きつつ、「植野さんに会いに行こうか」と方向を変えエレベーターに向かうも、植野さんがいなかった時はゾッとしました。

「ヤバイ!植野さんいない!集合しちまう!」

僕らは急いで1階に向かうと、フロアの端には大友さん、そこから20mほど離れたところには植野さんがいました。

集合しかけている…!

上を見ると階段の踊り場に立花さん。

植野さんのギターと立花さんのベースが、遠くにいながらも合奏しているのに気付きます。そのうちに大友さんも合奏に参加。

徐々に距離が近くなる3人、姿が見えないさやさんの声がアート作品である黄色い空間の中から聴こえてきます

そして最後には4人が集合。

そのまま全員で一曲演奏してライブは終了。

予定より30分早く、約1時間で終わりを迎えました。

滅多に体験できない貴重なライブ

ライブの楽しみ方が独特なので、楽しみ方がわからなかったり、ルールがわかっても楽しさを見出せなかったりする人もいそうな、ちょっと難易度が高めのライブかなと思いました。

難易度が高いということは、ライブの形としては、集客は難しいかもしれません。

集客が難しい=収益の目処が立ちにくいとなると、このライブの形がこれから広がって行くというのは簡単ではないかもしれません。

  • SIAFのイベントとして行われているからこそ、アートの展示を含めた空間で行えたこと
  • 一日がかりの長丁場のクロージングイベントの一環として行えたこと
  • 大友良英やテニスコーツといったアートと音楽の両面を持ちつつも知名度のある演奏者が揃ったこと

これらの条件が完璧に揃っていたことで、集客面やクオリティ面が担保され、今回のイベントが素晴らしいものになったのだと思います。

なかなかこのライブのスタイルが一般的になることは難しいとは思いますが、この形のライブをまた体験したい、そして演奏者の側として出演したいとすら思いました。

七尾旅人や青葉市子が参加しても面白そうな、新しいライブの形。

3年後のSIAFでまた観れることを期待しています。

*1:大風呂敷プロジェクトがどういうものかについてはこちらをどうぞ。大風呂敷プロジェクト – 札幌国際芸術祭

*2:ルールを知っているのに「あえて知らないフリをする」という「惑わし役」のスタッフがいるというのも、もしかしたらアリかもしれませんね。ライブ自体にもっと謎解きの要素を増やすとかして、謎を解かないとライブが観れないという要素を入れるとか。